【挨拶】内田副総裁「AI、ビッグデータと金融政策」(ECONDAT 2026 Fall Meetingにおける開会挨拶の邦訳)

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本日は、2026年ECONDATの秋期会合に皆様をお迎えできることを大変嬉しく思います。この会議は2019年の設立以来、研究者、政策立案者、そして様々な分野の専門家が一堂に会する、ユニークで重要なプラットフォームとなっています。

今年の会議では、AIとビッグデータに焦点を当てます。とくに、中央銀行にとって重要な2つの役割について検討します。1つ目は分析手法と研究の進展への貢献、2つ目はAIの導入が生産性や労働市場に及ぼす経済的な影響です。

AIは、金融政策の運営、金融安定の維持、決済インフラの運用を含む、幅広い中央銀行業務に影響を及ぼします。ここでは、AIの影響について金融政策運営の観点からお話しし、本日と明日議論される予定のテーマに関連する2つの問いを提起したいと思います。

最初の問いは、AIとビッグデータが中央銀行の分析にどのような変革をもたらしているかというものです。

要すれば、AIとビッグデータは2つの大きな制約を取り除いているように思われます。それは、計算能力の制約とデータの利用可能性の制約です。

計算能力は著しく向上しました。従来は多大な人的労力を必要としていたタスクが、機械学習技術や生成AIを使用することで、迅速かつ効率的に遂行できるようになりました。AIの導入により、中央銀行の研究者は従来よりもはるかに大規模なデータセットを取り扱い、より複雑な分析を実行することができるようになりました。

さらに、近年の技術進歩により、データ収集と研究設計のフロンティアが拡がりました。大規模言語モデルや生成AIの進展により、構造化されていないデータが構造化されたデータに変換できるようになりました。データの利用可能性は、量とバラエティの両面で大幅に進歩しました。

最近の活用事例をいくつかご紹介します。中央銀行では、かつては一般的でなかったテキストデータ分析を実施する事例が増えています。また、コロナ禍の際には、人流に関する高頻度データを使用して、景気後退の深刻度合いをリアルタイムで評価しました。最近の中東情勢が原油輸入やサプライチェーンに与える影響をモニタリングするにあたっては、船舶位置情報に基づくオルタナティブ・データも活用しています。

もっとも、完全には理解されていない部分も多く残っています。非伝統的データがどの程度有効かは、その時々の経済状態やデータの関連性に左右される可能性があります。この会議の1日目の議論が、より効果的な分析ツールの開発や政策研究に適したデータセットの特定に貢献することを期待しています。

技術革新の歴史を振り返ると、AIは汎用技術として私たちの生活に多大な影響を与える可能性が高いと考えられます。過去の蒸気機関やインターネットのように、AIは産業のあり方に変革をもたらし、広範なイノベーションを引き起こす潜在的な力を有しています。ただし、過去の技術革新とは異なり、AIは、肉体労働ではなく、人間の認知能力や知的作業を代替するものです。

この点の違いもあって、AIの普及速度やその経済的影響については、専門家の間で様々な見解がみられます。

楽観的な見方を示す専門家は、AIは経済に革新的な変化をもたらし、普及は急速に進むだろうと考えています。一方、慎重な見方を示す専門家は、人間の処理能力がAIに追いつかない「弱いリンクの制約(weak-link constraints)」と呼ばれる現象に言及し、AIの普及は緩やかなペースにとどまるだろうとみています。

より重要なことは、AIの導入が生産性や労働市場に与える影響には、正負両方の側面がありうるということです。正の側面としては、AIは定例的な認知タスクから労働者を解放してくれます。また、研究開発のような創造的で複雑な分野において、イノベーションを加速させる可能性があります。AIは、認知タスクにおける様々なアイデアについてあらゆる組み合わせを探求できるため、これまでにない革新的なインパクトをもたらすと考えられます。これらのAIの特長は、生産性の向上と長期的な経済成長に大きく貢献するでしょう。

一方で、負の側面としては、AIは、とくに知的労働に関するスキルを中心に、一部の人的資本を急速に劣化させてしまう可能性があります。これは、新しい仕事への適応を苦にする労働者には試練となります。また、より高い技術スキルや柔軟性を持つ人々が、他の人々よりも、はるかに大きな利益をAIから得る可能性があり、社会的な不平等にも影響を与える可能性があります。

パネルディスカッションを含めた2日目の議論が、これらの根本的な問いに対処するための思考材料を提供してくれることを期待しています。

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